クロックに関する余談だが、CPUの進化に市場が絡んだこんな話がある。かつて、CPUメーカーのIntelAMDはそれぞれ「PentiumⅢ」(ペンティアムスリー)と「Athlon」(アスロン)という製品で市場を争っていた。“CPUの性能は動作クロックによる”という周知の基本に従って(冒頭にも記したが、IPCは一般には知られていない)、両社とも自社製品のクロックを少しでも上げることに全力を注ぎ、「このCPUは○○Hzで動作します」という数字を見せることで消費者にアピールし続けていた。そしてそれまで数百MHzだったクロックを始めて1GHz(=1000MHz)の大台に乗せ、先に製品を出すことに成功したのは、わずかな差でAMDだったのだ。
辛酸を舐めさせられたIntelは以降、動作クロックに対して並々ならぬ執念を見せる。「PentiumⅢ」の次世代品となる「Pentium4」において、パイプラインをそれまでの20段から一気に30段にまで細分化し、そうすることで1.5GHz以上の高クロック化に成功した。・・・しかし前述したように、パイプラインを深くして得た高クロックは、結局細分化された命令の処理に費やされるため、全体の性能が飛躍的には向上しない。数字のトリックとも言える高クロックは、その後ユーザーを混乱させる要因の一つともなった。
とはいえ絶対的な性能は高く、また設計の合理化や分岐予測の精度の向上による高性能化等も相俟って、「Pentium4」の進化は加速度的に進むこととなる。
AMDはむやみにパイプラインを深くする手法をとらず、IPCを維持、あるいは向上させたまま全体のバランスを上げることに目標を移した。「Athlon」の次世代品「AthlonXP」は、クロックは2GHz程度でありながら性能は「Pentium4」の3GHzの製品に相当するものであった。しかし数字で判断する消費者に対する訴求力は弱まり、一時は玄人好みと評されるようになる。(AMDは製品名として「AthlonXP3000+」などとすることでアピールを続けていた。)


これまで長々とCPUについて説明してきたが、とにかく2〜3年前まではCPUメーカーは高クロックを目指していた、ということをひとまずご理解頂ければありがたい。(AMDも、自社製品との比較の中で少しでも高クロックを目指していた。)


パイプラインをそれまでの20段から一気に30段にまで細分化し
・・・これはダウトだなぁ。バレるかな?