限界の訪れ

高クロック化によって劇的な性能の向上を実現してきたCPUだが、近年になりその進歩が頭打ちとなってしまった。それは技術的な問題だけではなく、ずっと根本的な課題である。CPUが消費する電力が、大きくなりすぎていたのだ。
CPUの消費電力は、クロックの3乗に比例する。かつて1GHzで動作していたCPUを単純に3GHzまで高速化すると、消費電力は実に27倍にもなってしまうのだ。消費電力の増大は、電気代の増加という問題(企業や研究所で何百台、何千台と稼動させる場合を考えると、全く笑い話ではない)に留まらない。CPUが消費する電力は、最終的にはその全てが熱に変わるため、パソコンの小さな部品から膨大な熱量が発生することになる。その数値は早々に100Wを越え、発生する熱量を少しでも早く放出するために大きな放熱板(の塊)を要した。さらにそこに冷却ファンでむりやり風を当て、ケースの外に放出していたが、そんな方法ではもはや発生する熱量を受け止めきれなくなるほど消費電力は上がっていた。
実際にはかなり前から指摘されていた問題だったのだが、それまでは技術の進歩でむりやり押さえ込んでいた。細かな改良はもちろん、効果的だったのは「小型化」である。CPUは回路の塊であるので、その回路を短くして電気抵抗を小さくすることで、必要な動作電圧を下げ続けていた。理論上、電圧が下がれば消費電力は劇的に小さくなり、事実この手法は成果を上げつづけていた。
しかし回路の微細化は、同時に回路内の絶縁体の微細化をも意味する。回路の幅が90nm(0.00009mm)に達するころ、電流が想定外の場所に漏れる「リーク電流」が急激に増大した。絶縁体の幅が原子数十個分しかなく、それを超えて勝手に電流が流れてしまうのだ。リーク電流は回路の誤作動の原因となるだけでなく、それ自体が新たな熱源となる。リーク電流は電圧に比例するため、動作電圧を予定より下げる必要に迫られる。しかし低電圧では回路にも十分な電流を流せない。八方塞となったIntelPentium4は、高クロック化という手法での高性能化をついに諦める。Intelは新たな道を模索することとなった。
対するAMDも、当時の主力製品「Athlon64」での高クロック化が一時、頭打ちとなっていた。しかしこちらはPentium4と比べて同程度の性能を有しながら消費電力は明らかに低い(2〜3割減)CPUであったため、指示を伸ばすこととなる。とはいえそれまでの手法では限界が見えていたという点ではPentium4と変わらず、AMDも新たなCPUを研究する。
そして得られた回答の一つが、「マルチコア」である。

ここにも削ったしわ寄せの影がぁがぁ。