もちろん静音化の対象となるのはファンだけではない。ドライブも大きな騒音源のひとつである。FDDやMODは個人ではそれほど頻繁には使わないだろうが、ODDは映画や音楽を鑑賞するときに動作することも多い。高速な読み書きを目的としないならソフトによる静音化も可能であり、スリムドライブならやや高周波な音が耳につくが駆動音は小さい。いっそのことディスクイメージをHDDに移すことも可能である。そして最後に残るのがこのHDDだ。データ授受の大容量化に伴い、HDDも大容量化、高速化を果たしてきた。フラッシュメモリの大容量化も著しいが、コストの面ではPCの副記憶装置としてのHDDを欠かすことはできない。そのHDDは、静音化にあたっては2重の壁となる。繰り返しになるが「駆動音」と「廃熱」である。
HDDは1台ならまだしも、2台、3台と増えることで常に耳障りな音を出しつづける騒音源となり、また複数台の設置はPCケース全体の共振を招くこともある。防振ゴムなどが市販されているが、これを用いることによるシークのブレはHDDそのものの性能にかかわり、寿命にも影響する。またHDDはケースに直接固定されることで放熱を図っており、これを妨げることもHDDの寿命にかかわる。廃熱を処理するためにはケースやヒートシンクに固定した上でファンを用いるのが一番だが、このままでは静音化の実現は難しい。
そこで考えられるのが「音を聞こえないようにする」方法である。ファンの風きり音は前述のとおり大口径ファンを用いた上で回転数を下げるなどの工夫が考えられる。しかしファンやドライブのモーターによる振動、共振はケースそのものに工夫を施す必要がある。ケース内面に吸音材を貼り付けて音が漏れないようにするのが直接的な方法だが、エアフローを考慮すると全体を覆うことはできない。また、吸音とは「音エネルギーを熱エネルギーに変える」ことなので、ただケースを覆うだけでは意味がなく、それなりの周波数に対応するための厚さを兼ね備えた吸音材が必要となる。また3.5インチのHDDなら、例えば5インチベイ用のヒートシンクで覆ってしまうと音漏れが減少する。
共振を防ぐには、ケース自体の固有振動数を変える方法がある。錘を貼り付けたり空きベイに組み込むことで、ケースが人間の耳に聞こえる振動数で震えないようにするのである。ただしこれはよほどクリティカルに設置できないと効果は薄く、ケースそのものを重厚なつくりのものに変えたほうが効果的だろう。

静音化は総じてコスト増と低性能化につながり、しかも納得のいく効果を得られるとは限らない。データ通信が現在よりさらに飛躍的に向上すれば、処理そのものを遠隔地のサーバに任せ、IO機器のみを設置するという方法が実現するが、それまでは高効率の冷却方法を講じるしかないのだろうか。